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  • 執筆者の写真Mana LAURENT

フルーツケーキの長い一日

私は幼い頃から数字の世界に全く興味がありません。数学はおろかそれは算数の時代から、数えることから逃げ続けた人生でした。


のらりくらりと数字を見て見ぬふりの日々でしたが、うっかり写真の道を歩き始めたがために、避け続けていた運命が唐突に目前に現れたのが、撮影助手の時代です。


大型のフイルムカメラ、4×5(シノゴ)と呼ばれるこのカメラでは、光の量を測定し、蛇腹の長さを測り、レンズの絞り値とシャッタースピードによって、フイルムに焼き付けられる明るさを操ります。おまけに師匠は三種類の感度の異なるポラロイドをテスト撮影に使用していましたし、助手がこれらの計算をこそこそと紙に書いて確認するのをめざとく見つけては激昂していたものです。振り返れば確かに、この単純な原理を計算などと呼ぶのもおこがましい事がよくわかります。ですが、数字に呪われている者にとっては実に肝を冷やす日々でした。


それが今や、デジタルと言う人智を超えた助手がカメラの中に常駐しているような時代ですから、膝を振るわせながらシャッタースピードと絞り値を暗算した記憶も実感が薄れると言うものです。


英国式フルーツケーキの資料を読み始めるまでは。


そこに連なるは、oz(オンス)、lb(ポンド)、cup(カップ)、tsp(ティースプーン)、

tbsp(テーブルスプーン)


もうやめようかな、私はテーブルを離れてソファに転がりました。万物がグラムで計量可能なユートピアに私は長く居過ぎたのです。思えば一介の写真屋が、歴史ある雑誌の誠実なレシピのページを任されるなど、身の程知らずなのでした。人類は何故、バベルの塔を夢見たりなどしたのだろう。


そこへ、階段を昇る足取りも軽やかに現れた人こそ、彷徨える私を約束の地に導いた友人、二宮美佳氏でありました。



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