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  • 執筆者の写真Mana LAURENT

果物綺譚 其の二「 プルトンの柘榴」


古代の神々の物語が現代に至るまで人々を魅了し続けているのは、人間と言う生き物が備えるパーソナリティのあらゆる純粋なパターン、それらがいっそう劇的なカリカチュアで描き出されているからなのかもしれません。


藤沢の叔母の家には中庭に一本の柘榴の木がありました。寡黙で優しい叔父が庭に出てゴルフの練習をする時などに、幼い私が足元をうろちょろとしていると、小降りでよく熟れた実をひとつ嬉しそうに取ってくれたのです。それから私は柘榴の虜となりました。


夏の竹富島では、夕食の後によく皆でポーカーやブラックジャックに興じました。父はキャビネットの中からグレナデンシロップを取り出すと、カクテルグラスに氷を入れてシロップを注ぎ、私は大人になったような気分で、紅い独特の甘さのシロップを舐めました。


小学生になる頃、母から与えられた子供向けのギリシア神話物語集。春の女神ペルセポネーはある日、見たことも無い奇妙な花を引き抜こうとして、冥界の王プルトンを呼び覚ましてしまう。地下の国でペルセポネーが口にしたほんの四粒の柘榴の実。これが一年の内四ヶ月をプルトンの妻として過ごす契約となり、これにより地上にはペルセポネー不在の四ヶ月の間、冬が訪れることになった。


一年の内たったの四ヶ月しか奥さんと過ごせないプルトンが少々気の毒にも思いましたが、案外それこそが、後世の絵画などに描かれる事となる冥界の王と王妃の仲睦まじき姿の秘訣だったのかもしれません。思い起こせば、日本では鬼子母神が人の子の代わりに柘榴を食べるようになった、と言う伝説もありました。


秋の空気に乾いた岩肌のように粗野な実が割れ、透き通る紅玉石が光を受けて艶めかしく輝く様。またその小さな紅い粒の濃厚な甘さに、人々は秘められた神々の約束の物語を見出したのでしょうか。




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